米司法省が、インドの大富豪ゴータム・アダニ氏に対する詐欺罪の訴追を取り下げる準備を進めている。批判者はこの動きを「利益供与に基づく司法取引」と評する。アダニ氏はトランプ米大統領の個人弁護士の一人を雇い、事件終結の対価として100億ドルの米国投資を提案した。
この方針転換により、アダニ氏が2億6500万ドル規模の贈収賄を企てたとしてバイデン政権下で進められてきた訴追が終結することになる。批判者は、コネクションと資金、企業間の取引が司法判断を左右する危険な前例と警鐘を鳴らしている。
この転換は、アダニ氏がロバート・J・ジュフラ・ジュニア氏を新たな弁護団のリーダーに起用した決定に続いて起きた。ジュフラ氏はサリバン・アンド・クロムウェル共同会長であり、トランプ氏の個人弁護士でもある。
同氏は、先述されていなかった4月のワシントンでの会合で、約100枚のスライド資料を使い検察官と面談した。ニューヨーク・タイムズの報道によれば、政府側に証拠・管轄権が欠如していると主張したという。
その中の1枚には異例の提案が含まれていた。訴追が取り下げられた場合、アダニ氏が米国プロジェクトに100億ドルを投じ、1万5000人分の雇用創出に取り組むという内容だった。
同氏はこの数字を、検察が起訴状を公開する数日前の2024年11月、X(旧ツイッター)投稿でも示唆していた。
その後、検察当局はジュフラ氏に対し、投資の誓約が刑事処分決定の考慮材料にはならないと伝えた。ただし少なくとも1人の司法省幹部はこの申し出に好意的な反応を示したと報じられている。
アダニ氏には依然として米国当局の制裁が待ち受ける。証券取引委員会(SEC)は、早ければ木曜日にもアダニ氏に対する民事和解案をまとめる見通し。
罰金総額は合わせて約1800万ドルで、アダニ氏と共同被告が分担する。
さらに財務省による別件の調査ではより高額となる可能性がある。アダニ・グループ関連企業がイラン産の液化石油ガスを米金融チャネル経由で取引した疑いが当局により調査されている。この件では約2億7500万ドルの制裁金も想定されている。
両者を合わせれば民事制裁は3億ドル近くに達する見込み。ただしこれは、当初の起訴による実刑リスクには及ばない。
批判者は今回のアダニ事件の方針転換を、より広い現象の一端と捉える。過去1年で、トランプ氏は主要ドナーやビジネス関係者に恩赦を与えてきた。
また、同政権は司法省の暗号資産取締部門を解体し、SECの暗号資産担当弁護士も配置換えした。
同様の動きは近年の訴追終結事例にも見られる。「ビットコイン・ジーザス」で知られるロジャー・ヴァー氏は税務指摘問題で4800万ドルの支払い和解案に暫定合意した。
上院民主党は、バイナンス創業者チャンポン・ジャオ氏へのトランプ氏の恩赦をめぐり調査を開始している。
同盟関係にない人物への扱いとの差は鮮明だ。司法省は元FBI長官ジェームズ・コミー氏を2度にわたり起訴した。2度目の訴追は、コミー氏が2025年に「86 47」と貝殻を配置したインスタグラム投稿をめぐるものだった。
検察は、この画像を大統領に対する暗号の脅威と解釈した。
米当局者はニューヨーク・タイムズに対し、この訴追取り下げは海外贈収賄事件追及全般の撤退方針を反映したものであり、政治的便宜供与ではないと語った。
アダニ氏の純資産は1040億ドルと見積もられ、フォーブスのデータに基づけば世界で24番目の富豪となっている。
今回の事件の展開は、トランプ氏2期目において被告側が連邦捜査への対応をどう変えるかにも影響を及ぼす可能性がある。