暗号資産(仮想通貨)の規制法が、現行の資金決済法から金融商品取引法(金商法)に移行すれば、暗号資産は「決済手段」から「金融商品」へと法的位置づけを変える。そのとき、暗号資産という新しいアセットクラスと真正面から向き合うことになるのが証券会社だ。暗号資産は、証券会社が取り扱うさまざまな金融商品のひとつになり得る。
野村ホールディングスは、ウェルス・マネジメント、インベストメント・マネジメント、ホールセール、バンキングの主要4部門に加えて、デジタルアセット分野への先行投資を進めてきた。不動産証券化商品や社債などの有価証券をトークン化するシステムを提供するBOOSTRY、デジタル資産のカストディ(管理・保管)サービスを提供するKOMAINUがその代表例だ。さらに、機関投資家向けに暗号資産取引サービスなどを提供するLaser Digitalも傘下に持つ。
野村でデジタルアセット関連ビジネスの拡大を担うデジタル・カンパニー長の池田肇氏と、池田氏の下でデジタルアセットの最前線を担うデジタル・アセット推進室長の佐々木俊典氏に、野村がこのビジネスチャンスをどう捉えているのか、ビットコインETFやトークン化MMFの取り扱い、金融のオンチェーン化が顧客接点に与える影響などを聞いた。
拡大するチャンスと準備の現実
──国会で改正金商法が成立すれば、暗号資産の法的位置づけが変わり、「金融資産」となる。野村としてどのような影響やチャンスを想定しているか。
池田氏:暗号資産が金融商品として位置づけられれば、我々が関与する幅が広がる。すでに暗号資産を保有しているお客様もいるだろうし、今まで野村と取引がなかった暗号資産保有者も、金融商品と位置づけられたことで新たに関わりが生まれる可能性がある。
暗号資産はいまや時価総額が3兆ドル(主要暗号資産の合計、約470兆円、1ドル=156円)に迫り、アセットクラスとして非常に大きな規模に成長している。野村として「どう扱っていくか」を具体的に設計する段階にある。伝統的金融(TradFi)とブロックチェーンを基盤とする分散型金融(DeFi)は、それぞれ長所・短所がある。今後は双方の良い点を組み合わせ、お客様に選んでいただける環境を整えていくことが重要になる。
──金商法への移行は、2027年度の施行が見込まれている。すでに具体的な動きはあるのか。
池田氏:明らかにできないことも多いが、ディスカッションや検討は進めている。昨年から、制度の枠組みをある程度想定して、グループをあげて準備している。ただし、実務として取り扱うには、制度対応だけでなく、暗号資産のカストディ、セキュリティ、顧客への説明体制、さらには万一の際の責任範囲など、詰めるべき論点が非常に多い。
〈デジタル・カンパニー長の池田肇氏〉
ビットコインETFは「外せない商品」
──野村が提供する商品としては「ビットコインETF」が第一弾になるのか。
池田氏:ETF(上場投資信託)は証券会社にとって重要な存在だ。ビットコインETF、暗号資産ETFはもちろん外せない商品だが、どういう形式、どういう座組みで提供するかなど検討事項は多い。関係部署も多く、課題もあるので一定の時間はかかる。
佐々木氏:アメリカではビットコインETFをはじめとする暗号資産ETFがすでに多数上場し、機関投資家も活発に利用しており、成功事例と言える。一方、国内で暗号資産ETFを実現するには金商法の改正だけでは、すぐに市場に提供できない。
例えば、投資信託の運用対象となる「特定資産」に暗号資産を組み入れるためには、投資信託法上の整理が必要になる。また、カストディを誰が担うのか、証券化のための信託スキームをどう設計するのかといった論点もある。これらは我々だけで解決できる話ではなく、業界全体で進めていく。
セキュリティ面では暗号資産は国内外で過去に流出などのトラブルがあり、今後も懸念はある。その際の責任範囲、つまり責任分界点の整理は難しく、各社とも正解を持っているわけではない。法改正で可能になる時期に、最速で市場に提供するには時間的な余裕はさほどないと思っている。
池田氏:だが世界ではすでに実現している商品だ。できるだけ早く日本でも形にしていきたい。
〈「Nomura Investment Forum 2025」の資料より〉
日本のトークン化MMFをドルステーブルコインで購入する世界
──伝統的金融とブロックチェーンが融合する領域として、トークン化MMFが注目されている。アメリカではBlackRock(ブラックロック)の「BUIDL」などが機関投資家の間で存在感を高め、JPモルガンも2025年12月に「My OnChain Net Yield Fund(MONY)」をローンチした。野村の取り組みは?
佐々木氏:この半年から1年で、国債、株式、MMFといった金融の “本丸” のトークン化に関わる話題が増えた。MMFはステーブルコインに近い特性を持つ一方、国債や株式はまさにこれまで野村の主戦場である資本市場で取引されてきた資産そのものだ。ここは最重要テーマのひとつとして取り組んでいる。
トークン化された国債や株式を使って、新たにどのようなビジネスが可能になるのか。まだ我々のような伝統的金融からは見えていない部分もある。ブロックチェーンならではの長所を活かし、新しい金融サービスを作り上げることが今年のテーマだ。
また、ステーブルコインでは特に「米ドル建てステーブルコイン」の動向に注目している。日本円建てステーブルコインも話題を集めているが、規模と流動性を踏まえると、現時点ではビジネスとしてはドル建てがメインとなるだろう。
──日本でトークン化MMFが発行され、ドル建てステーブルコインで購入できるという世界も考えられるのか。
佐々木氏:むしろ、そういう世界を実現したい。為替レートの処理を誰が担うのか、DeFiサービスとして提供するのかなど、既存金融とは異なる発想が求められる。しかし、ユーザーの利便性を考えれば、従来にはない発想、ビジネスモデルで挑戦すべきだし、実現できると考えている。
〈デジタル・アセット推進室長の佐々木俊典氏〉
池田氏:金融サービスの本質は、お客様のニーズに応え、選択肢を広げることにある。トークン化やブロックチェーンを活用することで、これまで一部の投資家しかアクセスできなかった商品をより広く提供していきたい。
また、新しい商品、新しいマーケットを開拓するための発想やアイデアは非常に重要だが、同時にアイデアを具体的な形にすることも重要で、実は難易度が高い。野村の強みは、アイデアを実際のサービスや商品として形にしてきたことだ。こうしたエグゼキューションの積み重ねが、今後の競争力になると考えている。
──「ここ数年」とのことだが、具体的には何年くらいをイメージしているのか。
池田氏:4、5年で確実に変わるはずだ。最初の動き出しが一番大変で、前例が生まれればあっという間に広がり、いろいろなことがやりやすくなる。2、3年後くらいから加速度的に変わっていくのではないか。
暗号資産投資家との新たな接点創出
──野村はお客様と直接向き合う「ウェルス・マネジメント」を強みとしている。金融のトークン化・オンチェーン化の進展は、顧客との接点をどのように変えるだろうか。
池田氏:デジタルサービスとヒューマンタッチのサービスは、すでにハイブリッドで提供している。今後、デジタルサービスでは、アプリの進化や生成AIを活用した新しいサービスが生まれてくるだろう。
金融のオンチェーン化は、お客様からするとサービスの選択肢が広がることだ。野村のサービスには、ヒューマンタッチの強みとデジタルの利便性がある。今後はそこにオンチェーン金融が加わり、すべてがシームレスにつながっていく。
──今後、顧客にとっての選択肢が広がっていくと、提供側としては社内教育や体制の整備がより重要になる。
佐々木氏:一般的に新しいテクノロジーが登場すると、既存のものとバッティングして、「破壊的」などと言われがちだが、デジタルアセットは、我々にとっては現業そのものであり、手段は違うが、やっていることは変わらない。
野村は資本市場のサービスを一気通貫で提供しており、デジタルアセットでの取り組みは、これまでどこかの部署が担当していたことの手段が変わる話になる。テクノロジーの種類によっては、現業がディスラプト(創造的破壊)されるという話もあるが、デジタルアセットは親和性が高いテクノロジーだと思っている。
ビットコイン財務戦略、法人市場の可能性は
──2025年は企業が財務戦略としてビットコインなどの暗号資産を保有する動きが注目された。「DAT(デジタル資産トレジャリー)」という言葉も生まれているが、法人営業ではビットコイン財務戦略も視野に入っているのか。
池田氏:野村グループ傘下のLaser Digitalでは、機関投資家向けの暗号資産関連ビジネスを展開している。法人サービスを拡大していく余地はある。
佐々木氏:特別にDATという切り口でアプローチしていることはなく、あくまでもお客様サイドの暗号資産の活用方法のひとつと捉えている。金商法移行によって暗号資産が金融資産として位置づけられ、明確に資産クラスのひとつとなると、法人にとっては暗号資産の用途がより広がっていくだろう。ステーブルコインも含め、それらをトータルで法人に提供していくことも我々の重要な役目だ。
──暗号資産そのものを野村證券自体が取り扱う予定はあるのか。
池田氏:どういう形になるかはこれからだが、金融商品となれば、サービスのひとつとして取り扱うことになるだろう。お客様の中にはすでに暗号資産を保有している方もおられるので、そうしたお客様に対して、野村として野村らしいサービスの提供方法を考えていく。
佐々木氏:現状ではまだ、証券会社に、より親和性の高いビットコインETFや暗号資産ETFについて、そもそもどういった商品になるかを議論している段階だ。法人営業の領域でも、暗号資産やブロックチェーンを使ったファイナンスをアイデアベースでディスカッションしている。
池田氏:当社が提供しているWeb3ビジネスメディア「Web3ポケットキャンパス」で、ブロックチェーン関連サービスを展開している企業を取材しているが、水面下の取り組みも含めて、さまざまな検討を行っている企業は多い。今後、法人や機関投資家、さらには個人投資家からさまざまなニーズが見えてくるだろう。
今、暗号資産を保有している個人や企業は、これまでは野村に相談しなかったが、金融商品に位置づけられることで、野村も相談対象として浮上してくると考えている。
オンチェーン化は「資本市場の拡張」
──資産のトークン化、金融のオンチェーン化が進んだとき、金融、あるいは証券会社はどう変わっていくだろうか。
池田氏:金融の可能性は極めて大きくなっている。日本では「資産運用立国」が成長戦略のひとつとして掲げられ、個人も法人も金融サービスの利用が広がっている。そして、Web3は伝統的金融を破壊するわけではない。Web3、オンチェーン金融の世界がプラスαとして加わってきている。
金融のオンチェーン化は、資本市場の拡張にほかならない。「直接金融」に携わる者として、できること、やれることが増える。資金を調達する側、投資する側に、オンチェーン、さらにはオンチェーンと連動したオフチェーンで新しいサービスが提供できるようになる。
佐々木氏:金融のオンチェーン化では、地域・国境をまたぐファイナンスがよりスムーズに実現できる。規制や各国の事情があり、簡単ではないが、技術的には可能だ。サービスと地域の拡張を「資本市場の拡張」につなげることが大きなテーマだ。
我々は国内のみを対象としているわけではなく、ガラパゴス化しないことも忘れてはならない。世界における野村のポジションを取りに行く。日本はどうしても“閉じてしまいがち”な地域性があるが、オンチェーン領域では“まずは広げる”という発想を持つ必要がある。
──具体的なテーマとして、セキュリティ・トークンでは2026年、どのような取り組みを予定しているか。
佐々木氏:日本のセキュリティ・トークン市場は、不動産証券化商品と社債がメインになっており、ひとつはこのような商品性を広げていくことが重要になる。12月にはVCファンドを投資対象とするセキュリティ・トークンの発行を完了したが、このような裏付け資産の多様化を広げることが重要となる。
もうひとつは、規模がそれほど大きくない案件も取り扱えるようにすることだ。一定規模の案件に取り組むことは、セキュリティ・トークンの認知と信頼を広げるうえで重要だが、当初、セキュリティ・トークンに期待されていたことには「小規模なファイナンスが可能」という点もあった。そこがまだ十分に実現できていないとの反省もある。裏付け資産の多様化と合わせて、取り組むべきことは多い。
そして最大のテーマは伝統的金融商品のオンチェーン化で、これは野村だけで完結するテーマではないので業界全体で協力しながら日本の資本市場が世界に負けない市場であるために取り組んでいく。
──年末に「日本デジタル分散型金融協会」が設立され、池田氏は理事に就任した。協会設立の目的は何か、また今年、どんな活動を展開していくのか。
池田氏:デジタル分散型金融市場が広がる今、多様な関係者が集まり、意見交換・情報共有を行う場が必要になってくる中で今回の設立があったと思っている。
具体的には、暗号資産ETF、DeFi、ステーブルコイン、ノンカストディアルウォレット、セキュリティトークン/RWAトークンなどのテーマごとに分科会を設置し、さまざまな議論や情報交換を実施していく予定だ。
──2026年はどんな1年になるだろうか。
池田氏:金商法への移行によって、新たにスタートラインに立つ年になる。検討すべきこと、トライすべきことは多いが、金融サービスの進化を形にできる年だと考えている。柔軟な発想で議論し、しっかり形にしていく。業界を超えて、金融サービスに携わる方々と一緒により良いものを作っていきたい。
|インタビュー・文:増田隆幸
|撮影:多田圭佑
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