米財務省は3月、GENIUS法(ジーニアス法)第9条に基づき議会へ提出した32ページの報告書の中で、暗号資産(仮想通貨)ミキサー(送金履歴を追跡困難にするプライバシーツール)について「合法的ユーザーがプライバシー保護のために利用し得る」と明記した。220件超のパブリックコメントを精査したうえでの結論で、同省が2022年8月にミキサーのトルネードキャッシュを制裁指定した方針からの大きな転換となる。
財務省の外国資産管理局(OFAC)は2022年8月、トルネードキャッシュを「2019年の創設以来70億ドル(約1兆1,109億円)超のマネーロンダリングに使用された」として制裁指定した。さらに2023年10月には金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)がミキサー全体を「マネーロンダリング懸念クラス」に指定する規則案を提案するなど、規制強化の姿勢を強めていた。
流れが変わったのは2024年11月。第5巡回区控訴裁判所が「OFACはイミュータブルなスマートコントラクトを制裁対象にする権限を超えた」と判断した。これを受けてOFACは2025年3月21日、トルネードキャッシュをSDNリストから正式に削除し、制裁は解除された。今回の報告書はさらに踏み込み、FinCENの2023年規則案を最終化・支持せず「次のステップを検討する」との表現にとどめている。プライバシーへの配慮を優先した判断とみられる。
一方で報告書は、ミキサーの悪用リスクを明確に記している。北朝鮮のサイバー攻撃者は2024年1月から2025年9月にかけて少なくとも28億ドル(約4,444億円)の暗号資産を窃取し、うち15億ドル(約2,381億円)は2025年2月の暗号資産取引所大手バイビットのハッキング事件によるものだ。また2020年5月以降、ミキサーからクロスチェーンブリッジへの流入額は16億ドル(約2,540億円)に達するとも指摘している。
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同報告書は違法資産への対策として、取引所が捜査中に資金を一時凍結できる「ホールド法」の制定も議会に勧告した。合法利用の認定と不正対策の強化を両立させる姿勢が、今回の報告書全体に貫かれている。
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